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ART

2025年6月6日

名画鑑賞と美術教育の可能性

OCHABI主催のデザイン教育シンポジウム。第3回目のゲスト久保田巌さんと学ぶ、本物の名画を体験するワークショップ。子ども達に分かりやすく、リマスターアートの発明や美術教育の可能性について伝えてくれました。

T.B

名画を鑑賞すること

「モノの観方」の重要性がわかったところで、参加者が会場に⽤意された作品の前に集まり、ルーペやライトを使って細部を観察。


観察後は「視座」「視野」「視点」について考えた事や気付いた点などを描く、参加型ワークショップを実施しました。


回転する渦巻き模様の装置を使った視点変更体験では、ゴッホの絵が動いて⾒える不思議な感覚を体験し、視点変化の重要性を認識する機会になりました。

久保⽥さんがモネ、ルノワール、ドガ、セザンヌといった印象派の作品を取り上げ、それぞれの作⾵や絵の中の細部を深く観察することで、 モネの「⽇傘の⼥」における光の表現や動きや、ルノ・ワールの「ブランコ」に⾒られるコミュニケーションの描写、

ドガの「エトワール」に見られる、当時はまだ珍しかった室内照明の光をユニークな視点で描いた表現や使⽤した画材など、作品の技術的なことや、背景の情報が分かることを解説されました。

詳細をここで記述すると、とてつもないページ数になってしまうので、動画をご覧いただけたらと思いますが、久保⽥さんが解説されたミレーの「落穂拾い」について、少々記述させていただければと思います。


この作品は、3⼈の貧しい⼈たちが畑の落穂を拾う描写が⾒事な作品ではありますが、ミレーが敬虔なクリスチャンであったことが深く関係している絵画なので、キリスト教のお話も含めた形でより詳しく解説いただきました。

この絵は、当時の最下層の⼈を描いた作品。 旧約聖書の申命記に記されている⼈道上の規定を元にして「落穂拾い」を描いたと⾔われています。


底辺の闇にいる⼈々だが、そんな中でも懸命に⽣きる姿を表現した素晴らしいであることは理解できる。しかし描かれた当時はたくさんの⾮難を浴びたとのことです。


キリスト教の神聖なお話に貧しい⼈々を描くとは何事だ!イエス様を侮辱するのか!と。


しかし現在はそのような考えにはならず、貧しい⼈々の姿を⾒事に描写した傑作として⾒られている。つまりミレーは、だいぶ時代の先を⾏った考えを持っていたということが分かる。


やがてこのような⾵景画が認められるようになってきて、印象派の⼈たちが出てきました。彼らはアカデミーのガチガチの体制に⽭先を向ける反逆児たちでした。


真っ向から改⾰をする印象派の思想は、20世紀のピカソやヴラマンクなど⾊々な画家に引き渡されていって、今のアートがある。19世紀の絵画というものが、現代のアートの基盤であったとことが⾔える。このように解説いただきました。


名画のエピソード、本当に深いし⾯⽩いですね。


★名画についての詳しい解説は、Think ART展をご覧ください。

https://www.ochabi-institute.org/think-art

「絵は⼼の記録」

「絵というものは、その時代を⽣きた⼈の⼼の記録だと思っている」久保⽥さんはそう語ります。だからこそ重要なんです、と。

絵は⾃由に⾒ていい。ただ、その時代に何があったのか、この⼈たちの⼼は何だったのか、ということを考えて⾒てみると、もっともっと絵画を有意義に⾒られると思います。

まさに、「Think ART」のことですね!


「美」とは、世界中ほぼ同じ感覚で使われる言葉である

興味深い統計を、久保⽥さんが話されましたので、そちらも記述いたします。

「怖いイメージ、汚いイメージのものを⾒ていると、⼼が荒んでくる。 対して、美しいものを⾒て感動すると、⼈間の脳の司令塔の部分がすごく活性化します。


そういう事実を知ると、全⽶の起業家、特許取得者は14歳までにアートに触れている機会が⼀般⼈の8倍、という統計に納得いたします。


また、世界中のユニコーン企業(100億以上の資⾦調達を⾏なっている企業)の社⻑の3割が、アートにバックボーンがある⼈、という統計もあります。


世の中で新しい流れを起こしていく⼈の感じ⽅、考え⽅というものが美しいものを⽣み出す、美しいものを⾒る、ということと同じであると⾔えます」


また、“ミラー・ニューロン”という90年代に発⾒された脳の機能について、「よく⾒る」重要性と関連付けてお話をされました。


「『ミラー・ニューロン』は、モノマネ細胞のことで、共感脳といいます。絵を『よく観る』ことで、それを描いた⼈の脳の動きをコピーする能⼒が⼈間にはあるんです。


だから、『よく観る』ことが脳の成⻑にとってどれほど重要かが分かるでしょう」


なるほど!


今後、⾊々なものを⾒ていく上でそのことを意識しながら⾒ていくと、⾒え⽅も変わってくるかもしれませんね。


筆者も、もっともっと⾊んなものを「よく観る」ことを⼼掛けていきたいです。



美術教育の価値と可能性について

シンポジウムの最後に、久保⽥さんはおっしゃいました。


「美術教育というものは、芸術家を育てるためだけではない。⼈として美しい⾏ないが出来る。美しい変⾰を起こせる⼈になる。そのための第⼀歩が美術教育なのです」と。


「美しく⽣きる術」を⾝に着け、多様な視点から世界を理解する⼒を養う教育であることを強調されました。


「ここにいらっしゃる皆さんは、⼤きな可能性を持っていると⾔えます。これからはそういう考えで、美術に取り組み続けてほしい」


という⾔葉で締めくくっていただきました。

今回の学びのポイント

○視点を変えることの重要性:

普通の絵画鑑賞では不可能な形で、「視座」「視点」「視点」を操作することで新たな発⾒に繋がり、絵を⾒る⽬を養うことが体験できた。


○美術とテクノロジーの融合:

デジタル技術を駆使し、精巧に再現されたデジタルリマスターアートは、新しい技術の結晶であり、鑑賞の新しい可能性を⽰す例となった。


○教育としての美術:

単純描写⼒や技術習得だけでなく、ものの⾒⽅や感覚受容性の育成が重要であること。さらにはアートと社会とのつながりを理解することができる機会となった。


○参加型の体験学習:

観察、表現、グループワーク、模写、疑似体験など多様な⽅法で⼦どもも⼤⼈も主体的に学び、表現する機会が設けられた。


○歴史的な絵画と現代の感覚の橋渡し:

北斎から印象派、近代美術へと時代ごとの背景や画家の意図など、参加者がアートの変遷や多様な価値観を理解することができた。


○アートの社会的価値:

芸術的感性が、未来の変⾰や⾰新の創造、社会で活躍できる⼈材育成のためには重要であることが理解できた。



単なる絵画鑑賞ではなく、美術教育として⾮常に有意義で奥深い「Think ART展」となり得たデザイン教育シンポジウム#2でした。


ゲストの久保⽥巖さん、ありがとうございました!



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